2004年10月15日
注:これはシャフィイー法学によるものです

在ダマスカス日本人ムスリム勉強会2004年10月8日(金)
参考文献「アル=フィクフ・アル=マンハジー神事編」(シャーフィイー派法学解説書)ヒン、ブガー、シャルバジー共著 73〜91ページ参照

日本ムスリム倶楽部(Japan Muslim Club)

人のあらゆる行いは人自らのためにある。

斎戒をのぞいては。

斎戒はわれのためにあり、われが報奨を与えよう。
(アル=ブハーリーとムスリム伝承の聖ハディース−預言者さまがアッラーの御言葉として言われたもの)

《スィヤーム(斎戒)とは》
★言葉の意味としては⇒話であれ、食べ物であれ、ものを戒めること。

<根拠>

『私は慈悲深き主に斎戒の約束をしました。だから今日は、誰ともお話いたしません。』(第19・マルヤム章26節)

シャリーアでは⇒自覚をもってファジュル(夜明け前)の入り時刻からマグリブ(日没)まで、ムファッティル(斎戒を解いてしまうもの)を戒めること。

《斎戒の定められた歴史》
 ラマダーン月の斎戒が定められたのは、マッカからマディーナ(元ヤスリブ)へのヒジュラ後二年目のシャアバーン月のことで、スィヤーム(斎戒)そのものは預言者さま(アッラーの祝福と平安あれ)と時代を共にした啓典の民(ユダヤ教徒、キリスト教徒)たちにとっても、それ以前から馴染みのあるものであった。

至高のアッラーは仰せられている。

『信仰する者たちよ、汝ら以前の者に定められたように汝らに斎戒が定められた。汝らも主を畏れるであろう。』(第2バカラ章183節)

《ラマダーン月斎戒義務の根拠》
アッラーの御言葉より⇒『ラマダーンの月こそは、人々への導きとして、また導きと識別の明らかな証としてクルアーンが下された月である。それで汝らのうち、この月を見たもの(迎えたもの)は斎戒するがよい。』(第2バカラ章185節)


★預言者さまの御言葉より⇒『イスラームは五つの柱からなっています。アッラーのほかに神はなく、ムハンマドはアッラーの使徒であると証言(シャハーダ)すること、サラー(礼拝)を確立し、ザカー(喜捨)を払い、ハッジ(大巡礼)とラマダーンの斎戒を果たすことです。』(アル=ブハーリーとムスリムの伝承)
《ラマダーン月の確定方法》

ラマダーン月に入ったかどうかを確定するには二通りの方法がある。

@三日月を目撃すること(シャアバーン月30日目の夜−陰暦では日没と共に新しい一日の夜が始まる−に成人ムスリム男性がカーディー(裁判官)の前で三日月を目撃したことを証言することにより確定)
Aシャアバーン月を30日全うすること(曇り空で三日月が見えない場合、証人が現れない場合)

根拠⇒預言者さま曰く、『それ(三日月)を見ることで斎戒を始め、それを見ることで斎戒月を明けなさい。曇って見えない場合は、シャアバーンの期間を30日間全うしなさい。』(アル=ブハーリーとムスリムの伝承)

《斎戒が義務付けられる条件》
@義務遂行可能要素(タクリーフ)を備えていること
  アッラーが定められた人間としての義務を果たすには、最低三つの要素を備えていることが肝要。ムスリムであり、肉体的に成人であり、精神的に正常であることである。

根拠⇒教友アリー・ブン・アビー・ターリブ(アッラーのご満悦あれ)の伝える預言者さま(アッラーの祝福と平安あれ)の御言葉。曰く、『(行いの善悪を書き記す)ペンは三つのものからは引き留められます。寝ている者からは、目が覚めるまで。子供からは、夢精をするまで。狂人からは、正気を取り戻すまでです。』(アブー・ダーウードの伝承)

A斎戒が禁じられる、あるいは斎戒を解いてもよい状態にないこと

斎戒が禁じられる状態
  a−月経、産褥
  b−気絶、発狂

斎戒を解いてもよい状態
  a−病気
   −病気の原因になる場合
   −病気の回復を遅らせる場合
  −激痛を起こさせる場合

  −身体の一部を歪めてしまう場合

  −病気を悪化させてしまう場合

  b−83キロを超えるだけの長旅
  −シャリーアに適った旅であること

  −日中ずっとの旅であること


『病気にかかっている者、または旅路にある者は、別の日に(同じ)日数を。』(2:185)

  c−斎戒ができない場合

高齢で斎戒が無理してしかできなかったり、治る見込みのない病気にかかっていたりする場合

『それ(斎戒)に耐え難い者のつぐないは、貧者へのフィドヤ(給養)である。』(2:184)


《斎戒の必須事項》

 斎戒を成立させるには、次の二点を全うすることが肝要。
  @斎戒のニーヤ(意図、気持ち)を持つこと
  Aファジュルからマグリブまでの間、斎戒を解いてしまうものを戒めること

<ニーヤに関して>

 ニーヤを持つとは、斎戒をしようという気持ちを心の中で持つことである。その気持ちをあえて口にしなくてもよく、意識せずに「斎戒をする」という文言を口にするだけでは不十分。『あらゆる行いは、気持ち次第・・・』(アル=ブハーリーとムスリムの伝承)という預言者さまの御言葉からも分かるように、習慣あるいは単なる動作と崇拝行為を区別するのは気持ちの持ち方次第だからである。
 特にラマダーン月の斎戒を自覚するには、次の条件も満たすことが肝要。
@タブイート(床に着く前に気持ちを確認すること)

  根拠⇒「ファジュルの前に斎戒の意図を明確にしなかった者に、斎戒はありません。」
(アッ=ダールクトゥニーやアル=バイハキーの伝承)

Aタアイーン(具体化)

   心の中でどんな斎戒をするつもりなのか、斎戒の意図の内容を具体化すること。

Bタクラール(繰り返し)

毎晩ファジュルの前にその日の斎戒の意図を明確にすること。ラマダーン月一ヶ月分のニーヤを一度明確にするだけでは十分とはいえず、毎日新たに与えられるイバーダ(崇拝行為)の機会をその都度再認識するためにも、ラマダーン月斎戒の意図を繰り返し明確にする。

とはいえ、任意の自発的な斎戒に関しては、タアイーンもタクラールも必要とはされず、正午前に何であれ斎戒の意図を抱けばよい。

根拠⇒アーイシャさまが伝える預言者さまの御言葉。ある日のこと、「何か食べるものはあるかね。」「いいえ。」「では、斎戒しよう。」(アッ=ダールクトゥニーの伝承)

<斎戒を解いてしまうものを戒めることに関して>
@飲食

少量であれ、わざと食べ物や飲み物を口にした場合は斎戒が無効となってしまうが、自分が斎戒中だということを忘れてうっかり口にしてしまった場合は無効とはならない。

根拠⇒教友アブー・フライラが伝える預言者さまの御言葉。「自分が斎戒中の身であることを忘れて食べたり飲んだりしてしまった者は、斎戒を全うしなさい。アッラーが食べさせ、飲ませてくださったのです。」(ムスリム、アル=ブハーリーの伝承)

A身体の穴から口腔(ジャウフ−食道)に何かが入ってしまうこと

身体の穴とは、口、耳、鼻、性器、肛門のことである。

例えば耳への点滴は、耳が常に開いていて食道につながっているため斎戒を無効にしてしまうが、目への点滴(目薬をさすこと)は、目が食道につながっていないため斎戒を無効にはしない。肛門からの注射は、肛門が穴として開いていて体内につながっているため斎戒を無効にしてしまうが、血管への注射は血管が常に開いているわけではないため斎戒を無効にはしない。

B故意的な嘔吐

C故意的な性交(編注−例えば光の入らない部屋で朝を迎えたとき、と説明されたりはするが、はたして故意的でない性交などあるのだろうか…?)

D自慰行為

E月経および産褥

F発狂および背教

《斎戒の礼儀》

 斎戒の礼儀は数多くあるが、中でも重要なのを挙げるとすれば…

@イフタール(斎戒明けの食事)をなるべく早くとること

根拠⇒教友サハル・ブン・サアドが伝える預言者さまの御言葉。
「フィトル(斎戒明けの食事)を急いでいるうちは、人々もまだまだ捨てたものではありません。」(アル=ブハーリーとムスリムの伝承)

Aサフール(斎戒前の食事)をとること

根拠⇒預言者さまの御言葉。「サフールをとるようにしなさい。サフールにはバラカ(恩寵)があります。」(アル=ブハーリーとムスリムの伝承)


「サフールをとるようにしなさい。たとえコップ一杯の水であっても。」(イブン・ヒッバーンの伝承)


Bサフールをなるべく遅くとること

ファジュルの時間に入る少し前に食事をとることが勧められる。

根拠⇒預言者さまの御言葉。「イフタールを早めにし、サフールを遅めにしている限り、わたしのウンマ(信仰共同体)も大丈夫です。」(イマーム・アフマドの伝承)

C身を慎むこと(悪口や陰口を避け、欲望を抑えること)

Dファジュルの前に沐浴をすませること(グスルが必要な場合)

E斎戒明けの食事をとるときに、次の祈りを捧げること

「アッラーよ、わたしはあなたのために斎戒しました。そしてあなたを信じ、あなたの御恵みによって斎戒を解きました。渇きは失せ、身体は潤い、インシャーアッラー、報奨は確かなものとなりました。」

アッラーフンマ ラカ スムトゥ、ワ ビカ アーマントゥ、ワ アラー リズキカ アフタルトゥ、ザハバ=ッ=ザマウ、ワ=ブタッラティ=ル=ウルーク、ワ サバタ=ル=アジュル、インシャーアッラー。

Fサダカや善行に励むこと、クルアーンの読誦や考察、マスジド(モスク)にこもること(特にラマダーン月最後の10日間)

『ある者が尋ねました。「アッラーの御使いさま、どのサダカが一番ですか。」曰く、「ラマダーン月のサダカです。」』 (教友アナスに由来するアッ=ティルミズィーの伝える伝承)

教友アブー・フライラ(アッラーのご満悦あれ)によると、アッラーの御使いさま(アッラーの祝福と平安あれ)は言われました。「ラマダーンに入るとシャイターンたちは縛られて身動きできなくなりますそして天国の門は開けられ地獄の門は閉じられるのです。」(アル=ブハーリーとムスリムの伝える伝承)

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