心身健康科学特論
2005/2/24 うんむらふま
 生体には、血圧調節・体温調節・血液の電解質調節・血糖調節などのような様々なホメオスターシスの維持機構が備わっている。また、生体には数多くの感覚性あるいは求心性神経によって成り立つフィードバック系が存在し、これらの系が適切に常時脳に作用することによって、脳によるホメオスターシスが維持されている。この生体の調節には「ネガティブフィードバック」が基本にあり、多くの場合―Aが増えれば一巡してAを減らすように作用が働く−仕組みになっている。また、体内の様々なパラメーターの調節は独立して機能しているわけではなく、血圧は体液量と深く関係しー体液量は体温の調節とも関係しー体温調節はエネルギー量(血糖値)に影響されるーというように、それぞれが互いに影響し合いながら、変化し調節されているのである。そして、その総体である私たちが「生きている」ということ、と理解され得る。
 基本的な調節メカニズムのいくつかは、隠れたレベルで作用しており、個体自身が直接知ることはできない。分析しない限り、循環している様々なホルモンやカルシウムイオンの状態、体中の赤血球の数などは分からない。しかし、明白な行動と関わるもう少し複雑な調節メカニズムは、特定の方法でその行動をとるよう(あるいは、とらないよう)われわれに仕向けるので、そのときわれわれはその存在を間接的に知ることができる。それらは「本能」と呼ばれる。
 食事をして数時間後血糖値レベルは低下するー視床下部のニューロンが変化を検出するー関係する生得的パターンの活性化により、脳が修正の確率が増加するように身体状態を変化させるー空腹感が生じるー空腹感を終わらせるための生得的行動が始まるー何かを食べるー食物の摂取が血糖値レベルを修正するー視床下部が再び血糖の変化(増加)を検出しー関係するニューロンにより満腹感が得られるような身体状態がつくり出されるーこのように調節メカニズムは、特定の「指示」を働かせ特定のパターンの身体的変化を引き起こすことで生存を確かなものにしている。
この全サイクルを動かす基本的な神経回路は「前もって構造化されているメカニズム」であり、その神経パターンは、脳幹と視床下部の回路にある。視床下部は内分泌腺の調節と、免疫系の機能において中心的役割を演じており、内分泌調節は代謝機能の維持に、また生体組織の防御管理に欠くことのできないものである。視床下部は、脳幹と辺縁系の助けを得ながら<内部環境>を調節しているのである。
 われわれがしなければならないことは、そのメカニズムが環境に眼を向けるようにすること、それだけである。

 参考文献
 佐藤昭夫著『「心身健康科学特論」研究ガイド』人間総合科学大学 2004年
佐藤昭夫著『人間科学概論』人間総合科学大学 2000年
新井康允著『脳科学論』人間総合科学大学 2001年
アントニオ・R・ダマシオ著『生存する脳』講談社 2003年
彼末一之著『生理学はじめの一歩』メディカ出版 1999年


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