2004年8月12日
シリア留学生一同

イスラーム法の法源

  1. 啓典(クルアーン)

 それは、明確なクルアーンであり、高価な宝、宗教の柱、宗教の礎でもある。アッラーは、そこにすべての知を委ね、クルアーンによって、間違った道と正しい道を区別した。そのためクルアーンは、英知の源であり、使命のしるし、物事を正しく見るための光である。至高なるアッラーは仰せられた。

 

【それでわれは、凡ての事物を解き明かす啓典をあなたに下した】 (蜜蜂章・89節)

 

【啓典の中には一事でも、われがおろそかにしたものはない】 (家畜章・38節)

 

 そして、ハディースを参照すると、こうある。

《実にこのクルアーンは、アッラーの強い綱であり、明確な光、有効な癒し、それをつかんだ者にとって防御となり、それに従った者には救いとなる。そこには人間の理性に合わない表現はなく、そして理性の中で矛盾する法則もない。そこに含まれている驚くべき事実は、絶えることがなく、何度読んでも飽きることはない。》 (ティルミズィー出典)

 

 イブン マスウードはこう伝えている。

《もしあなたがたが知識を求めたいなら、クルアーンを深く学びなさい。実にそこには、人類の初めから終わりまでの者にとっての知識がある。》 (バイハキー出典)

 

 クルアーンにある規定は、一般的なものが多く、詳細に述べているものは少ない。だから、隠れたところを明確にするスンナに立ち返る必要が出てくるわけである。これで、アッラーはこのウンマ(共同体)に、彼らの知性を無視しなかったどころか、名誉を与えたと言える。先々の共同体のように、詳細にわたる規定をあらかじめ述べたりはしなかった。それは、イスラーム法が一般的であり続け、その基本原則に変更の必要が生じないためである。

 

 クルアーンの意味: 

 

 クルアーンとは、私たちの長ムハンマド(注1)に、アラビア後で下った啓典で、代々大勢の人によって伝えられ、アル・ファーティハ章で始まり、アンナース章で終えられたもの。そのためクルアーンの翻訳はクルアーンとは呼ばれず、字義通りに訳されても、意訳されても、解説でしかない。それと、タワートゥル(代々大勢の人によって伝えられること)で伝えられなかった、クルアーンの例外的な読み方も、クルアーンと言えない。

 

どのようにクルアーンは下っていたか?

☆出来事や何らかの機会によるクルアーン降下☆

 至高なるアッラーは仰せられた。

 

【(これは)われが分割(して啓示)したクルアーンであり、あなた(預言者)にゆっくりと人びとに読唱するために、必要に応じてこれを啓示した】 (夜の旅章・106節)

 

【また信仰しない者は、「クルアーンは何故一度に全巻が下されないのですか。」と言う。こうするのは、われがあなたの心を堅固にするため、よく整えて順序よく復誦させるためである】 (識別章・32節)

 

 

クルアーンはモーゼ(彼の上に平安があるよう)の五書のように、一度にみ使いに下ったのではなく、事件のあるたびに、ある出来事の裁定を明確にするため、或いは質問の答えとして下ったのである。

 

≪出来事の後に下る例≫

至高なるアッラーは仰せられた。

 

【多神教の女とは、かの女が信者になるまでは結婚してはならない】 (雌牛章・221節)

 

 この節は、マルサド・アル・ガナウィーのことで下ったと学者たちは言っている。預言者()が、弱い立場にあるムスリムを連れてくるためにマッカヘ遣いを出したところ、ある多神教徒の女性が彼女のところで泊まるように申し出た。彼女は財産と美貌の持主であったが、マルサドはアッラーを畏れて、申し出を断ったのだった。すると彼女は彼に結婚したいと申し出たところ、彼はみ使い()に相談することを条件として申し出を受け入れた。マルサドがみ使い()のところに戻った際にその件についてたずねると、上の節が下った。

 

≪出来事の前に下る例≫

至高なるアッラーは仰せられた。

 

【またかれらは孤児に関し、あなたに問うであろう】 (雌牛章・220節)

【かれらは、如何に施すべきか、あなたに問うであろう】 (雌牛章・215節)

【かれらは月経に就いて、あなたに問うであろう】 (雌牛章・222節)

【かれらは女のことで、あなたに訓示を求める】 (婦人章・127節)

【かれらは新月に就いて、あなたに問うであろう】 (雌牛章・189節)

 

 少ないが、質問や出来事の起こる前にクルアーンが下ることはあった。質問の答えや、出来事の裁定と共に、その裁定と深い結びつきがある法律を含む節が下ることもあった。

 

【かれらは女のことで、あなたに訓示を求める】 (婦人章・127節)

 

 この節は、提示された質問は、女性の孤児との結婚についてだったが、孤児に対する公平な扱いと両親への孝行が付け足された形で答えが下った。

 

クルアーンの段階による降下:

 

 クルアーンは預言者()に、出来事や機会のたびにばらばらに下り、時に、ファーティハ章のように章丸ごと下る場合もあり、時には「偽りの噂話*注」にあるように、10節のみ下ったり、「信者章」の最初の部分もそうであり、また5節のみ下ったりすることも多かった。

 

☆そこに見られる英知について☆

1、クルアーンがばらばらに下されることによって、預言者()の心を強くし、そしてクルアーンを暗記させた。なぜなら彼()は、文盲で書かず、読まなかったからでもある。しかし、彼以前の使者たちは読み書きが出来たので、一度に下されたものを整理、暗記もできたのである。

【こうするのは、われがあなたの心を堅固にするため】 (識別章・32節)

 

2、クルアーン中に、ナースィフとマンスーフ(イスラーム法で、一定期間のみ有効とされた法則と、それを無効にするために下された新たな法則のこと)があるということは、ばらばらに下されるものにしかありえないことで、そこにアッラーの英知が働いたといえる。

 

3、クルアーンの一部は、質問による答え、或いはあるイスラーム法律の説明として下った。

 

4、ばらばらにクルアーンが下される事に、しもべ(人類)に対する慈悲がある。彼らはイスラーム前は全てが許される世界にいた。もし一度にクルアーンが彼らに下されたら、重荷になっただろうし、そのためクルアーン中にある命令や禁止から彼らの心は遠ざかってしまったことだろう。アル・ブハーリーの出典した、アーイシャの言葉がそれを明確にしている。

 

《実に最初に下された章は短く、その中では天国と地獄が語られます。そして人びとがイスラームに帰依すると、ハラールとハラームが下され、もし最初に「飲酒をしてはいけません」と言われると、人々は必ず「私たちはきっと飲酒をやめないでしょう」と言い、「婚外交渉をしてはいけません」と言われると、人々は必ず「私たちはきっと婚外交渉をやめないでしょう」と言ったことでしょう。》

 

     注1: アラビア語で「サッラーッラーフ アライヒ ワ サッラム」。彼の上にアッラーの祈りと祝福がありますように、という意。「預言者」と述べられると必ず上記の祈りの言葉を唱える。この言葉は、サラートアランナビーといわれ、唱えるたびにアッラーからの褒賞があり、また預言者()様に対する愛情が増すといわれる。

 

     注2: ヒジュラ暦6年、バヌー ムスタラク戦後、み使い(の愛妻であるアーイシャが、ムスリム軍がマディーナに戻る途中にキャラバンを休めた際、用を足すためにそこから離れ、また皆のところに戻ると、首飾りが無くなっていた。彼女はそれを探しにまた出掛けたところ、皆はマディーナに向かって出発し始めた。籠に彼女が乗っているものと皆思い込んでいたためだった。なぜなら、アーイシャは細くて軽かったからである。そして、彼女がキャラバンのあった場所に戻ってくるなり皆が居ないことを知ると、その場にうずくまり助けを待つことになった。そこへ、教友の一人であるサフワーン ブヌ アルムアッタル アッスラミーがそこを通りかかり(彼はキャラバンの一番後ろにつき、落し物などを見る役だった)預言者の妻であるアーイシャを見つけるなり彼女にラクダを近づけ、それに彼女を乗せ、すぐにマディーナへと向かった。

  マディーナへ戻ると、アブドゥッラー ブン ウバイという偽信者が信者たちに、二人に就いて

  面白くない噂を広め、アーイシャはとても苦しんだが、後ほど啓示で彼女の無実が知らされ、

  噂に翻弄された信者たちは啓典の中で非難された。

 

 *コーランの訳は日本ムスリム協会の日亜対訳注解聖クルアーンに拠ります。

 *ハディースは意訳です。

 *ムハンマド アリー アッサーイス著 〜イスラーム法の歴史〜(ダール ル フィクル社) の31から36項を抜粋して訳しました。