ハディース・イスラーム伝承集成
神の唯一性(五分の一)


ブハーリー編纂
牧野信也訳


預言者がその民に神が唯一であることを喚びかけたこと。

(一)イブン・アッバースによると、預言者はムアーズをヤマンに遣わすに当り、次のように言った。「啓典の民のところに行ったならば、彼らに先ず第一によびかけるべきは、アッラーが唯一であることである。これを彼らが認めたならば、次に、神は彼らに一日五回の礼拝を課しておられることを知らせ、彼らが礼拝を行うならば、次に、神は彼らの財産に喜捨を課し、それを富んだ者から集め、貧しい者に分けられることを知らせ、彼らがこれに同意したならば、徴収せよ。ただし、彼らの財産のうち、貴重なものは避けよ」と。


(二)ムアーズ・ブン・ジャバルによると、預言者が「ムアーズよ、神に対して人間がなすべきことは何であるか、知っているか」と尋ねたとき、彼が「アッラーと使徒が最もよく御存じで、わたしにはわかりません」と答えると、預言者は「人間が神を崇め、他の何者をも仲間として立て
ないことだ」と言った。次に、「人間に対して神がなすべきことは何か、知っているか」と尋ねたとき、ムアーズがやはり「アッラーと使徒が最もよく御存じです」と答えると、預言者は「神が彼らを罰しないことだ」と言った。



(三)アブー・サイード・アル・フドリーによると、或る男が「告げよ、これぞアッラー、唯一なる神」(一一二の一)という言葉だけを一晩中繰返し唱えていたが、翌朝、預言者のところへ行き、それが少なすぎるように思って彼に話したところ、神の使徒は「わたしの魂がその御手のうちにある神にかけて、この言葉はコーラン全体の三分の一に相当する」と言った。



(四)アーイシャによると、預言者が或る人を長として立てて一分隊を送ったとき、彼は仲間達の礼拝を指揮し、その終りにいつも「告げよ、これぞアッラー、唯一なる神」と唱えていた。一行が帰ったとき、これを預言者に話すと、彼は「なぜ、そうしたのか、彼に尋ねてみよ」と言い、彼らが尋ねたところ、「この言葉はアッラーをよく表わしており、わたしはこれを唱えるのが好きなのだ」と答えた。これを聞いて預言者は「神が彼を愛しておられることを彼に告げなさい」生言った。





いと高き神の言葉「言え、『アッラーとよんで祈ろうが、慈悲ふかき神とよんで祈ろうが、どちらの名でよんだところで、要するに最高の美称はすべてアッラーのもの』と」(一七の一一〇)。

(一)ジャリール・ブン・アブド・アッラーによると、神の使徒は「人々を憐れまない者を、アッラーは憐れまれる」と言った。



(二)ウサーマ・ブン・ザイドは語った。我々が預言者の家にいたとき、預言者の娘の使者が来て、彼女の息子が危篤のため来訪を求めた。すると、預言者は「娘のもとへ帰り、取るものも、与える志のも、すべてアッラーのもので、すべてのものは神のみもとで一定の期限がつけられていることを告げ、忍耐し、すべてを神の御心に委ねるように勧めなさい」と言った。しかし、彼女は再び使者を送り、父の来訪をしきりに求めたので、預言者は立ち上り、サァド・ブン・ウバーダとムアーズ・ブン・ジャバルを伴って娘の家へ行き、子供を見ると、その息は乾いた皮袋の音のように荒れていた。預言老の目からは涙が溢れた。そこでサァドが「神の使徒よ、この涙は何のしるしでしょうか」と尋ねたとき、彼は「これは神が人間の心の中に入れ給うた慈悲のしるしであり、アッラーは人間のうちで慈悲深い者に慈悲をかけられる」と答えた。





いと高き神の言葉「アッラーこそ真の養い手、万古不易の権勢の担い手」(五一の五八)。

(一)アブー・ムーサ・アル・アシュアリーによると、預言者は「アッラー以上によく中傷に耐える者はない。人間達が、神に息子がある、などと恐れ多いことを言うにもかかわらず、アッラーは彼らを見逃し、日々の糧を下さるのだから」と言った。





いと高き神の言葉「……アッラーだけが目に見えぬことまで全部御存じ。その秘密を洩らしていただけるのは特にお気に召した使徒ばかり」(七二の二六−二七)。「かの時について知っているのはアッラーばかり……」(四一の四七)。

(一)イブン・ウマルによると、預言者は言った「不可視界の鍵は五つあり、アッラーのみがそれを知る。すなわち、子宮の縮み具合をアッラーの他に知る者はなく、明日、何が起るか、アッラーの他に知る者はなく、いつ雨が降るかアッラーの他に知る者はなく、人はどの地で死ぬか、アッラーの他に知る者はなく、そしてまた、かの時がいつ来るか、アッラーの他に知る者は一人もいない」と。



(二)マスルークによると、アーイシャは語った。ムハンマドは主を見た、と言う人の言葉は偽りです。彼自身「神を見ることはできない」と言いましたから。また、ムハンマドは不可視界のことを知っている、という人の言葉も偽りです。彼は「アッラーのほかに不可視界のことを知る者はない」と言いましたから、と。





いと高き神の言葉「……平安の神、誠実の守護者……」(五九の二三)。

(一)アブド・アッラーは語った。我々が預言者の指揮の下で礼拝していたとき「アッラーに平安あれ」と言うと、彼は「アッラー御自身平安なのだから、むしろ次のように言いなさい」と命じた。すなわち、「祝福と礼拝とはアッラーのもの。預言者よ、汝に平安と神の恵みと祝福あれ。また我らと神の敬産な僕らに平安あれ。わたしは、アッラーの他に神はなく、ムハンマドは神の僕、そして神の使徒であることを証言する」と。





いと高き神の言葉「人間の王者」(一一四の二)これについて、イブン・ウマルは伝承を伝えている。

(一)アブー・フライラによると、預言者は「復活の日、アッラーは大地を掴み、右手で空を巻き上げ、『我は王者、地上の王達はいずこにありや』と言われるであろう」と言った。





いと高き神の言葉「ああ勿体ない、ああ恐れ多い、お前の主、栄光の主は、彼らの考えているようなものではない」(三七の一八〇)アッラーと使徒に栄光あれ。神の栄光と属性にかけて誓う人アナスによると、預言者は「地獄が『神よ、汝の栄光にかけて、もう十分、もう十分』と叫ぶであろう」と言った。アブー・フライラが預言者から伝えるところによれば、天国と地獄の間に、地獄行きの人々のうちで最後に天国に入る男が立ち、「主よ、わたしの顔を地獄からそらせて下さい。あなたの栄光にかけて、これ以外のことはお願いいたしません」と言うであろう。アブー・サイードによると、神の使徒は「神は『これと、さらに十の同じようなものを汝に与える』と言われるであろう」と言った。アィユーブは「神よ、あなたの栄光にかけて、わたしはあなたの祝福なしには生きて行けません」と言った。)

(一)イブソ。アッバースによると、預言者は「主よ、あなたの栄光にわたしは助けを求めます。あなたの他に決して神はなく、またジンや人間はすべて死んでも、死なないあなたに」と言うのが常であった。



(二)アナスによると、預言者は言った。「悪人達が次々と地獄に放り込まれると、地獄は『まだ入る者はいるか』と尋ね、やがて万有の主が地獄に足を踏み入れて捲き上げると、地獄は「もう十分です、もう十分です」と言う。





いと高き神の言葉「アッラーこそは真実をもって天と地を創り給うたお方」。

(一)イブン・アッバースによると、夜に預言者は次のように祈るのが常であった、という。すなわち、「神よ、あなたに称讃あれ。あなたは天と地の主、天と地とその中にあるすべてのものの保護者。あなたに称讃あれ。あなたは天と地の光。あなたの言葉は真実。あなたの約東は必ず果され、あなたとの出遇いは必ず起り、天国は真実、地獄も真実、最後の時は必ず到来する。神よ、わたしはあなたにすべてを委ね、あなたを信じ、あなたに帰依し、あなたに立ち還り、あなたに基いて言い争い、あなたに裁きを委ねます。どうか、わたしの過去の過ちも将来の過ちも、隠す過ちも現わす過ちもお赦し下さい。あなたの他に神は絶対にありません」と。



(二)上記の伝承において、スフヤーソは「あなたの言葉は真実」の前に「あなたは真理そのもの」という言葉をつけ加えている。





神はすべてを聞き、すべてを見給う「アッラーのお耳に聞こえたぞ、あの女が自分の夫のことで汝に言いがかりをつけ、アッラーに訴えているのが」(五八の一)という神の言葉について、アーイシャは「すべての声を聞き給うアッラーに讃えあれ」と言った。

(一)アブー・ムーサは語った。預言者と共に遠征中、坂を登る度ごとに我々が「アッラーは至大なり」と唱えると、彼は「そうせっつくものではない。あなた方が祈るのは耳の聞こえないものや、居ないものではなく、近くに居ですべてを聞き、そして見る神であるから」と言った。それから彼は、心の中で「アッラーのお傍の他、力はない」と唱えているわたしのもとへ来て、「アブド・アッラー・ブン・カイスよ、アッラーのお傍の他、力はない、と言いなさい。これは天国の宝の一つだから」と言った。



(二)アブド・アッラー・ブン・アムルによると、アブー・バクルが預言者に「神の使徒よ、わたしが礼拝の際、祈る言葉を教えて下さい」と求めたとき、彼は「『神様、わたしは我と我が身に不義を行いました。あなた以外に過ちを赦す者は居りません。どうか、わたしをお赦し下さい。あなたはすべてを赦す恵み深い方ですから』と言いなさい」と命じた。



(三)アーイシャによると、預言者は「天使ジブリールがわたしによびかけ、『アッラーはお前の民の言葉と彼らのお前に対する返事をお聞きになった』」と言った。




一〇
いと高き神の言葉「アッラーは全能にいます……」。

(一)ジャービル・ブン・アブド・アッラー・アッ・サラミーによると、神の使徒は教友達にコーランの章句を教えると同時に、すべての事について神の意志を求めることを教えて言った。「あなた方のうちの誰でも、何か事をしようとするときは、先ず規定以外のラクアを二度行ってから、次のように言いなさい。『神よ、わたしは、あなたの知識によって、わたしに知識をお与え下さるよう求め、あなたの力によって、わたしに力をお授け下さるよう求め、またあなたのお恵みを切に求めます。あなたは力をお持ちですが、わたしには力がなく、あなたは知識をお持ちですが、わたしにはありません。そしてあなたは不可視界のことを御存じです。神よ、もしあなたが、この事がわたしにとって、現世においても来世においても、他の伝承によれば、わたしの信仰にとっても生活にとっても良いとお思いならば、それをわたしに可能にさせ、容易にさせ、それによってわたしを祝福して下さい。神よ、もしその事がわたしにとって、現世においても来世においても悪いとお思いならば、どうか、それをわたしからそらせ、何であれ、良いものをわたしに与え、それに満足させて下さい』と」




一一
心をひっくり返す者。いと高き神の言葉「我らは彼らの心と眼とをひっくり返し……」(六の一一〇)。

(一)アブド・アッラー・ブン・ウマルによると、預言者は最も屡々「いや、心をひっくり返す神にかけて」と言って誓った、という。




一二
アッラーは九十九の名を持つ。

(一)アブー・ブライラによると、神の使徒は「アッラーは九十九の名を持っ。それらを憶える者は天国へ入るであろう」と言った。




一三
神の御名を魔除げ等のために用いること。

(一)アブー・フライラによると、預言者は「あなた方のうちの誰でも、寝床につくときは、衣の端で床を三回叩いてから、『主よ、あなたの御名においてわたしは伏し、また起き上ります。もしあなたが、寝ている間にわたしの魂をお引寄せになるならば、お赦し下さい。またもし、わたしの魂をまだそのままにしておかれるならば、敬産な人々を護るようにお護り下さい』と言いなさい」と命じた。



(二)フザイファによると、寝床につくとき、預言者は「神よ、あなたの御名においてわたしは生き、そして死にます」と言い、朝、目覚めたときは、「わたし遠を一旦死なせた後でまた生かして下さったアッラーに讃えあれ、そして復活の日、わたし達は神のみもとに集められます」と言うのが常であった。



(三)アブー・ザッルによると、夜、寝るとき、預言者は「主の御名においてわたしは死に、また生き返ります」と言い、目覚めたときは、「一旦死んだ後でわたし連を生き返らせ給う神に讃えあれ。復活の日、わたし達は主のもとに集められます」と言うのが常であった。



(四)イブン・アッバースによると、神の使徒は「あなた方のうちの誰でも、妻と交わろうとするときは『アッラーの御名において、神よ、わたし達から悪魔を遠ざけ、またあなたがお与え下さるものからもシャイターンを遠ざけ給え』と唱えよ。そうすれば、もし二人の間に子供が生まれるようになった場合、シャイターンは決して害を加えることはできないであろう」と言った。



(五)アディ・ブン・ハーティムが預言者に「猟犬を放す場合、どうすればよいでしょうか」と尋ねたとき、彼は「アッラーの御名を唱えて猟犬を放し、それが獲物を捕えたならば、食べよ。また、矢を射て命中したときも食べてよい」と答えた。



(六)アーイシャが「神の使徒よ、ここに、ごく最近まで偶像を拝んでいた人々が居り、わたし達のところへ肉を持って来ましたが、彼らがアッラーの御名を唱えて屠ったかどうかわかりません」と言ったとき、彼は「あなた方自身が神の御名を唱えた上で食べなさい」と応えた。



(七)アナスによると、預言者は「アッラーの御名において」そして「アッラーは至大なり」と唱えて二匹の子羊を屠った、という。



(八)ジュンダブが目撃したところによれば、犠牲祭の日、預言者は礼拝の後で説教し、「礼拝の前に屠った者は、その代りにもう一匹屠り、まだ屠らない者はアッラーの御名を唱えて屠りなさい」と言った。



(九)イブン・ウマルによると、預言者は「あなた方の父達の名において誓ってはならない。およそ誓う者はアッラーの御名において誓え」と言った。




一四
神の性質、属性、そして名前について述べられること。

(一)アブー・フライラによると、神の使徒がフバイブをはじめとする十人の人々を遣わしたとき、フバイブはかみそりを借りて陰毛を剃り、殺されるために人々の前に引出されるや、「ムスリムとして神のため、前と後のいずれの側に倒れるもよし。すべては神の御為ぞ。御心ならば、アッラーはわが引裂かれし屍を祝福し給わん」と叫んだ。




一五
いと高き神の言葉二番こわいのはアッラー御自身だと、アッラーが汝らをお諭しになっておられる」(三の二八〔三〇〕)。「汝の御心の内はわたしにはわかりませぬが、汝はわたしの心の内を全部御存じでいらっしゃいます」(五の一一六)

(一)アブド・アッラー・ブン・マスウードによると、預言者は「アッラー以上に嫉妬深い者はいない。そのため・神は姦淫を禁じられる。また、アッラーより讃美を好む者はいない」と言った。



(二)アブー・フライラによると、預言者は「アッラーは世界を創造したとき、玉座の傍に置かれていた運命の書の中に、『わたしの恵みは怒りに勝る』とお書きになった」と言った。



(三)アブー・フライラによると、預言者は語った。「いと高き神が言われるには『わたしは、わたしの僕がそうである、と思うような者である。僕がわたしの名を唱えるとき、わたしは共に居り、彼が心の中で秘かにわたしを念ずるとき、わたしも心の中で彼を憶い、彼が人々の中で公然とわたしの名を唱えるとき、わたしもより多くの人々の中で彼のことを述べ、もし彼がわたしにちよっと近づくならば、わたしは彼に一尺近づき、もし彼がわたしに一尺近づくならば、わたしは彼に一文運づき、もし彼が歩いて来るようならば、わたしは彼のもとへ駈けて行くであろう』と」と。




一六
いと高き神の言葉「すべてのものは滅び去り、ただ滅びぬはその御顔のみ」(二八の八八)。

(一)ジヤービル・ブン・アブド・アッラーによると、「アッラーは、お前たちに、頭の上から罰を惹き起すこともおできになる」という啓示が下されたとき、預言者は「あなたの御顔に助けを求めます」と言い、次に「足の下からでも」という言葉が続いたときも、彼は「あなたの御顔に助けを求めます」と言い、さらに「お前たちを四分五裂に仲間割れさせて」(六の六五)と言われたとき、彼は「これは幾分、易しい」と言った。




一七
いと高き神の言葉「わたしの見ているところで、汝がすくすくと育つようにしてやったのであった」(二〇の四〇〔三九〕)。「我らに見守られて走って行った」(五四の一四)

(一)アブド・アッラー・ブン・ウマルによると、人々が偽キリストのことを預言者の前で話したとき、彼は自分の目を指差しながら、「あなた方がよく知っている通り、アッラーは片目ではないが、偽キリストは左眼、がつぶれており、それは種を抜いたなつめやしのようである」と言った。



(二)アナスによると、預言者は「アッラーはどの預言者を遣わす場合にも、必ずその民に、片目の偽キリストについて警告させる。あなた方の主は片目ではないが、偽キリストは片目で、その眉間には『不信仰者』と書かれている」と言った。




一八
「これぞアッラー、万有を創造し、創始し、形成するお方」(五九の二四)

(一)アブー・サイード・アル・フドリーによると、信徒達はアル・ムスタリク族を攻撃して多くの女性を捕虜にしたが、子を作らずに彼女達と歓を交えたいと思った。そこで預言者にアズル(前出、性交中断)について尋ねたところ、彼は「そうしても、かまわない。復活の日まで、どれだけの人間が創られるか、アッラーはすでにお決めになっているから」と答えた。アブー・サイードによると、預言者は「アッラーが創造されなければ、いかなる人間も生まれない」とつけ加えた、という。




一九
いと高き神の言葉「これ、イブリース、このわしが手ずから創ったものになぜ挨拶せぬ」(三八の七五〔七四〕)。

(一)アナスによると、預言者は語った。「復活の日、信仰者達は地獄の入口に集められると、その場所から救い出されるために、主に執成してくれる者はいないかと思い、先ずアーダムのところへ行って『アーダムよ、アッラーはあなたを手ずから創り、天使達をあなたに跪かせ、すべてのものの名をあなたに教えました。この場所からわたし達が救い出されるように、どうか主に執成して下さい』と求める。すると、アーダムは『わたしには出来ない』と言って彼が犯した過ちのことを話し、『わたしではなく、むしろヌーフのところへ行きなさい。彼は、アッラーがこの地上へお遣わしになった最初の使徒だから』と応える。そこで彼らがヌー7のところへ行くと、彼も『わたしには出来ない』と言って、彼が犯した過ちのことを話し、『むしろ、慈悲深い神の友であるイブラーヒームのもとへ行きなさい』と勧める。次に、彼らがイブラーヒームのところへ行くと、彼も『わたしにはできない』と言って、彼が犯した過ちについて話し、『むしろ、神がトーラーを授け、直接語りかけたムーサのもとへ行きなさい』と勧める。次に、彼らがムーサのもとへ行くと、彼も『わたしには出来ない』と言っ て、犯した過ちのことを話し、『むしろ、神の僕、使徒、言葉、そして霊であるイーサのもとへ行きなさい』と勧める。次に、彼らがイーサのもとへ行くと、彼は『わたしには出来ない。むしろ、過去の罪も将来の罪も赦された神の僕ムハンマドのもとへ行きなさとと言う。こうして彼らがわたしのところへ来ると、わたしは彼らを連れて行き、主に拝謁を求めて許されるが、主をまのあたり見るやいなや地にひれ伏し、しばらくそのままにしていると、やがて『ムハンマドよ、頭をあげよ。お前が何かを言えば聞かれ、求めれば与えられ、執成せば認められよう』という声がかかる。そこで、わたしは教えられた通りの言葉で主を讃えてから執成しをすると、主から一団の人々が示され、わたしは彼らを天国へ導く。それから、わたしは引返し主を見るやいなや地にひれ伏し、しばらくそのままでいると、やがて『ムハンマドよ、頭をあげよ。お前が何かを言えば聞かれ、求めれば与えられ、執成せば認められよう』と声がかかる。そこで、わたしは教えられた通り主を讃えた後、執成しをすると、主から一団の人々が示され、わたしは彼らを天国へ導く。それから、わたしはまた引返し、主を見るやいなや地に ひれ伏し、しばらくそのままでいるが、やがて『ムハンマドよ、頭をあげよ。為前が何かを言えば聞かれ、求めれば与えられ、執成せば認められよう』と声がかかる。そこで、わたしは教えられた通り主を讃えた後、執成しをすると、主から一団の人々が示され、わたしは彼らを天国へ導く。その後で、わたしはまた引返し、『主よ、もはや地獄には、コーランによって、そこに永久に留まるべし、と宣告された者以外は残っておりません』と言うであろう」と。


そして、預言者は言った。「『アッラーの他に神なし』と唱え、心の中に大麦一粒の重さほどの善いものを持つ者は、地獄から出るであろう。また、『アッラーの他に神なし』と唱え、心の中に小麦一粒の重さほどの善いものを持つ者も、地獄から出るであろう。さらに『アッラーの他に神なし』と唱え、心の中に蟻一匹の重さほどの善いものを持つ者も、地獄から出るであろう」と。



(二)アブー・フライラによると、神の使徒は言った。「アッラーの御手には物が満ち溢れており、昼に夜に惜しみなく与えても減ることはない。あなた方は、アッラーが天地創造以来費された多くのものを見ないか。それでも、神の御手のうちにあるものは全く減ることはない。そして神の玉座は水の上にあり、アッラーのもう一方の御手のうちには、上ったり下ったりする秤がある」と。



(三)イブン・ウマルによると、神の使徒は「復活の日、アッラーは大地を掴み、大空もその右手の中に入ってしまい、神は『我こそは王である』と言われる」と言った。



(四)アブド・アッラー・ブン・マスウードによると、或るユダヤ教徒が預言者のもとに来て、「ムハンマドよ、神は、天も地も、山々も、木々も、またすべての生きものも指先でつまみ、『我こそは王である』と言われます」と言ったとき、彼は奥歯が見えるほど大笑いしてから「あれはアッラーの本当の大きさを量りそこねたのだ」(六の九一)という言葉を唱えた。



(五)アルカマがアブド・アッラー・ブン・マスウードから伝えるところによれば、啓典の民の或る男が預言者のもとに来て、「アブ・ル・カースィムよ、神は、天も地も、木々も、童たすべての生きものも指先でつまみ、『我こそは王である』と言われます」と言ったとき、彼は奥歯が見えるほど大笑いして、「あれはアッラーの本当の大きさを量りそこねたのだ」と唱えた。




二〇
「アッラーより嫉妬深い者はいないしという預言者の言葉。

(一)アル・ムギーラによると、サァド・ブン・ウバーダは「もしわたしの妻と一緒にいる男を見つけたならば、刀の先で突き刺すであろうに」と言ったが、これが神の使徒の耳に入ったとき、彼は言った。「あなた方はサァドの嫉妬深さに驚くかもしれないが、わたしは彼よりも嫉妬深く、そしてアッラーはわたしよりさらに嫉妬深い。そのために神は、現われたものでも隠れたものでも破廉恥を禁じられた。またアッラー以上に謝罪を好む者はなく、そのために神は、再びのおとずれを伝え、また警告を与える預言者を遣わされた。さらに、アッラーより讃美を好む老はなく、そのために神は天国を約束された」と。




二一
「言え、一句ものの証言が一番強力か』と。言え、『アッラーこそ、わたし一ムハンマド一とお前たちとの間の証人……』と」入の一九一ここでアッラーは御自身のことを「もの」とよんでおられる。預言者はコーランを「もの」とよんでいる。

(一)サフル・ブン・サァドによると、預言者が或る男に「コーランのうちの何かを憶えているか」と尋ねたとき、彼は「はい」と答え、これこれの章、これこれの章、と言って憶えているすべての章を数え上げた。




二二
「玉座がまだ水の上にあったころ……」(一一の九(七))「彼こそは偉大なる玉座の主」(九の一三〇(一二九))

(一)イムラーン・ブン・フサインは語った。わたしが預言者のもとに居た折、タミーム族の人々が来たので、彼、か「タミーム族の人達よ、よい知らせを受入れなさい」と言うと、彼らは「よい知らせをもたらした、とあなたは言うが、我々に何かを下さい」と応えた。そのとき、ヤマンの人々が入って来たが、タミーム族の人々が受入れなかったので、預言者は次にヤマンの人々に「よい知らせを受入れなさい」と求めた。そこで彼らが「わたし達は宗教について学び、また神の創造について尋ねるために来ましたしと言ったとき、預言者は「この世界の何もない頃、アッラーはすでに存分し、その玉座は水の上にあった。それから神は天と地を創り、運命の書にすべてのものの名を書き入れた」と応えた。このとき突然一人の男が「イムラーンよ、あなたの牝路駝が逃げたから、掴えなさい」と叫んだので、追いかけたが、蜃気楼に遮られて見ることができなかった。「アッラーにかけて、路駝が逃げてしまったのだから、わたしはわざわざ出かけなければよかった」と。



(二)アブー・フライラによると、預言者は「アッラーの御手には物が満ち溢れており、昼に夜に惜しみなく与えても減ることはない。あなた方は、アッラーが天地創造以来費された多くのものを見ないか。それでも神の右手のうちにあるものは減ることはない。そして玉座は水の上にあり、もう一方の御手の中には、恩寵−或いは、死の秤が上り下りしている」と言った。



(三)アナスによると、ザイド・ブン・ハーリサが来て訴えたとき、預言者は「アッラーを怖れ、お前の妻を離縁せずにおけ」と言った。そしてザイドの妻ザイナブは預言者の他の妻達に対して「あなた方を嫁がせたのはあなた方の親達ですけれど、わたしを預言者にめあわせたのは、七つの天の彼方にいますアッラーに他なりません」と誇らしげに言った。(ムハンマドの奴隷で、後に養子となったザイドの妻にムハンマドは心を惹かれた。ザイドは離婚して妻を讓ろうとした醜聞を恐れ、一時はザイドの離婚を抑えようとした。)



(四)イーサ・ブン・タフマーンがアナス・ブン・マーリクから聞いたところによれば、ヴェールに関する啓示はザイナブ・ビント・ジャフシュの結婚のとき下され、その日、預言老は彼女のためにパンと肉の御馳走をした。そしてザイナブは「わたしをめあわせたのは、天にいますアッラーにほかなりません」と言って、預言者の他の妻達に誇った。



(五)アブー・フライラによると、預言者は「創造の業を終えたとき、アッラーは玉座の上に『わたしの恵みは怒りに先立っ』とお書きになった」と言った。



(六)アブー・フライラによると、預言者が「アッラーとその使徒を信じ、礼拝と断食を行う者は、神のために移住するにせよ、生まれた土地に留まるにせよ、必ず天国に入れられるであろう」と言った。そこで信徒達が「神の使徒よ、これを人々に知らせてよいでしょうか」と尋ねたとき、彼は「天国には、アッラーが神の道に戦った人達のために備えた百の段階があり、その各々の隔たりは天と地の間の開きがある。だから、アッラーにお願いするときは、フィルダウスを求めなさい。これは天国の中心の最も高い所で、その上に慈悲深い神の玉座があり、そこから天国の川が流れ出ているのだから」と答えた。



(七)アブー・ザッルは言った。わたしがモスクに入ると、神の使徒は座っており、やがて陽が沈んだとき、彼が「アブー・ザッルよ、太陽はどこへ行ったか知っているか」と尋ねたので、わたしは「アッラーと使徒が一番よく御存じです」と答えた。



(八)ザイド・ブン・サービトは言った。アブー・バクルが人を遣わして命じたので、わたしはコーランの断片を探し、遂にアブー・フザイマのところで「悔悛」の章の終りの部分を見出した。これは以前は誰のもとにもなかったものである。「今、こうして汝らには、汝自身の間から使徒が遣わされて来ておる……もし彼らが背を向けたら、言うがよい、『わしはアッラーさえあればそれで充分。そのほかには神はない。彼こそはわしの唯一の頼り。彼こそは偉大なる玉座の主』(九の二二〇〔二一九〕)」。



(九)ユーヌスも上述の伝承を伝えている。



(一〇)イブン・アッバースによると、預言者は心配のとき、「全知なるアッラーの他に神なし。偉大なる玉座の主アッラーの他に神なし。天地の主、玉座の主なるアッラーの他に神なし」と唱えるのが常であった。



(一一)アブー・サイード・アル・フドリーによると、預言者は「復活の日、人はみな気を失うが、ふと見ると、ムーサが玉座の足の一つにつかまっているであろう」と言った。また、アブー・フライラによると、預言者は「わたしは一番先に蘇らせられ、見ると、ムーサが玉座につかまっているであろう」という言葉をつけ加えている。










書名
著者
出版社
出版年
定価
ハディース・イスラーム伝承集
下巻: ISBN 4124031378
ブハーリ編纂
牧野信也訳
東京・中央公論社 1991 本体9515



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